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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)6788号 判決

原告

三原利之こと金鍾彦

被告

安積建設株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、金一〇八万円及びこれに対する平成元年四月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを八分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決の一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金九二四万五一五〇円及びこれに対する平成元年四月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、工事作業中のダンプカーに乗用車が衝突、炎上した事故について、乗用車の運転者が、工事を行つていた会社に対して損害賠償(修理費八二四万五一五〇円と慰謝料一〇〇万円)を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  被告による工事等

(一) 被告は、近畿電気工事株式会社からの発注により、大阪市都島区都島本通一丁目二番二七号先付近において、電線路埋設工事を行つていた。

右工事のため、都島警察署長から市道大阪環状線の東行車線(片側二車線)(以下「本件道路」という。)のうちの左側車線と歩道の一部について使用許可がなされ、被告は、同所付近の左側車線をカラーコーンで仕切つたうえ、同車線を使用して工事を行つていたが、本件道路を通行する車両の誘導のため、被告の依頼により、株式会社クール警備保障(以下「クール警備保障」という。)から警備員が派遣され、本件工事現場手前の本件道路上に中村友鴻が、本件工事現場付近の本件道路上に藤原吉男がそれぞれ立つて、本件道路通行車両の誘導を行つていた。

(二) 本件道路の幅員、形状は別紙図面記載のとおりである。なお、本件道路と西行道路とを区分する中央分離帯には、高さ約一メートルの柵が設けられていた。

2  本件事故の発生

次の事故が発生した。

(一) 日時 平成元年四月二〇日午前一時四〇分頃

(二) 場所 大阪市都島区都島本通一丁目二番二七号先の本件道路中央寄り車線上

(三) 被害車 普通乗用自動車(大阪三三と八八六四号)(ポルシエ)

右運転者 原告

(四) 加害車 普通貨物自動車(京一一せ一八九四号)(四トンのダンプカー)

右運転者 康福壽

(五) 態様 加害車が、積載した埋設用土砂を本件工事現場に運ぶために左側車線から中央寄り車線に進入し、バツクで工事現場に入ろうとしたところ、同車の後部に被害車前部が衝突し、炎上した。

二  争点

1  被告の責任の有無

(一) 加害車が中央寄り車線に進入したのち、バツクで本件工事現場まで接近するといつた工事方法をとつたことに過失があり、その結果、本件事故が発生したといえるか。

(二) 本件道路進行車両の誘導について過失があり、その結果、本件事故が発生したといえるか。

(被告は、以上の点について、本件事故は、原告の制限速度違反と前方不注視により、ブレーキ操作が遅れたことにより発生した自損事故というべきものであり、被告のとつた工事方法にも、警備員による誘導にも何らの過失はなく、被告は責任を負わないと主張する。)

2  損害額(特に、相当な修理費。なお、被告は、被害車の所有関係についても争う。)

第三争点に対する判断

一  被告の責任について

1  事実

(一) 本件事故現場付近の状況

本件事故現場付近の状況は別紙図面記載のとおりであり、本件道路は、都島橋東詰交差点を過ぎた付近から本件事故現場付近にかけて左に緩くカーブし、最高速度は時速五〇キロメートルに制限され、また、終日駐車禁止とされていた。そして、本件道路が前記のようにカーブしていること並びに歩道に樹木が植えられ、また、後記のとおり左側車線には工事用の看板当が設置されて前方の視界が遮られていたため、都島橋東詰交差点付近を進行する車両からの前方の見通しは良くなかつた。

なお、本件事故当時の天候は晴れで、路面(平坦なアスフアルト舗装)は乾燥していた。

(甲一、五号証、検甲一ないし四号証、検乙一ないし五号証)

(二) 被告の工事方法、本件道路進行車両に対する誘導等

前記のとおり、被告は、都島警察署長からの道路使用許可に基づき、本件事故現場付近の左側車線をカラーコーンで仕切つて工事を行つていた。右使用許可に当たり、土砂、資材等の搬出入は、工事現場の死角から行うこととされていたが、本件工事現場付近における作業では、土砂を降ろす便宜上、埋め戻し土砂を積載したダンプカーは、都島橋東詰交差点の東進信号が赤となり東行車両が途絶えたときに、中央寄り車線からバツクして左側車線に入る方法がとられていた。

また、工事に当たつては、道路標識、指導看板等の整備が義務付けられ、被告は、別紙図面記載のとおり、都島橋東詰交差点東側横断歩道の北側に車線減少及び中央寄り車線へ誘導する矢印の指示板を設けたほか、道路工事中の標識や看板、黄色回転灯等を設置していた。そして、右許可の条件として、工事中は工事現場の両端に保安要員を配置して交通の円滑と事故防止に努めることとされており、被告は、クール警備保障に警備員の派遣を依頼し、現場責任者である原憲一の指示に従い、中村が〈A〉付近に、藤原が〈B〉付近に立ち、通行車両の誘導をしていた。

(甲一、二、四、五号証、検乙一ないし五号証、証人原憲一、同藤原吉男、同中村友鴻、原告〔第一回〕)(なお、被告は、都島東詰交差点の西側横断歩道北側に「これより一〇〇メートル先工事中」の立看板を立てていたと主張するが、検乙一号証に写つている立看板は本件事故後に設置されたものであり、本件事故当時、右の場所に立看板が設置されていたことを認めるに足りないというべきである。)

(三) 本件事故の状況

(1) 康は、加害車(長さ五・七九メートル、幅二・二メートルの四トンダンプカー)に埋め戻し用の土砂を満載し、別紙図面〈甲〉付近で待機していたところ、原の指示により、土砂を工事現場に搬入するため、都島橋東詰交差点の東進信号が赤となり、東行車両が途絶えたときに、中央寄り車線に進行し、同図面の〈ア〉付近に停止した。そして、バツクで左側車線に入ろうとしたところ、被害車が加害車後部に衝突して被害車前部が炎上したため、康は、加害車を前進させて被害車を引き離し、左側車線に停止させたが、被害車の火災は、原らによつて、間もなく消し止められた。

なお、本件事故当時、工事現場付近の左側車線には、作業を終えたユニツト車が停止していた。

(2) 原告は、被害車(長さ四・四三メートル、幅一・八四メートル、車両重量約一五〇〇キログラム)の助手席に田中由香里を、助手席後部に堀田久幸を乗せ、天六方面から都島本通交差点方面に向かつて本件道路を進行中であり、都島橋西詰交差点手前で赤信号に従つて一時停止したのち、青信号で発進して都島橋を渡り、さらに、青信号に従つて都島橋東詰交差点を制限速度を相当上回る速度で通過した。そして、原告は、進路前方が工事中であることを知りながら、そのまま行けるものと軽信し、減速徐行もせず、別紙図面〈1〉付近から中央寄り車線の方に進路を変更し、前方を注視しないで進行したため、約五八・五メートル進行した〈2〉付近に至り、はじめて前方約二四・六メートルの〈ア〉付近に停止中の加害車を発見し、急ブレーキをかけたが及ばず、約二四・六メートル進行した〈3〉付近で被害車前部と加害車後部とが衝突し、被害車前部が加害車後部に少し潜り込んだ状態で停止した。

(3) 中村は、被害車が別紙図面〈1〉付近を進行してくるのを見て、誘導灯を振つて中央寄り車線に進路変更するよう指示したが、被害車は高速で接近し、中村がそれ以上の指示をする間もなく、同人の横を通過してしまつた。そして、藤原は、別紙図面の〈甲〉より少し東側(「中央分離帯」のうちの「離」の上付近)を進行してくる被害車を発見し、誘導灯を上下に数回振つて停止の合図をしたが、被害車はその直後に加害車後部に衝突した。

なお、中村は、本件事故当時、原から進行車両を停止せさる等の指示は受けておらず、加害車が土砂搬入のために中央寄り車線に進入したことは知つていたが、加害車は既に土砂を入れ終わり、同車線内には留まつていないと考えていた。

(甲一、二、五、一七号証、乙二号証、藤原証言、中村証言、原証言、安倍証言、原告〔第一回〕)

〔衝突地点等について前記のとおり判断した理由〕

ア 衝突地点について

甲一号証、安倍証言、藤原証言(特に4項)を総合すると、本件衝突地点は前記のとおりと認められるところ、原告は、本件衝突地点は前記認定の場所よりも約一〇メートル手前であり、被害車は衝突後約一〇メートル引きずられたと供述する(第一回平成二年四月一三日付調書19、21、24項)。しかしながら、本件事故直後に行われた実況見分の際には被害車が引きずられた痕跡は認められず(甲一、安倍証言10項)、また、原告自身、右実況見分の際には警察官に「加害車が移動するときに若干動いたかもしれない。」と述べていたに留まることや、加害車の損傷状況(甲一号証によれば、後部バンパーの擦過等)及び後記被害車の損傷状況並びに乗車人員を含めた総重量などに照らすと、衝突後、加害車が前進した際、被害車が前方に引きずられたとしても、それはごく僅かであつたと推認され、原告の右供述部分は信用できない。

一方、被告は、前記〈×〉地点よりも手前(別紙図面でいえば、被害車〈3〉の後部付近)が本件衝突地点であると主張し、原証言中に同旨の供述部分が存するが、本件事故直後の被害車の停止位置や藤原証言に照らすと、原証言中の右供述部分も信用できないというべきである。

イ 被害車の速度について

原告は、本件事故直前は時速約五〇キロメートルの速度で進行していた旨供述し(第一回平成二年四月一三日付調書14項)、前記実況見分の際、警察官に対して時速五〇ないし六〇キロメートルで進行していた旨を述べていたことが認められる(安部証言12項)。

しかしながら、反応時間を〇・七五秒、路面の摩擦係数を〇・七とした場合、時速五〇キロメートルの速度で進行中の自動車の停止距離は計算上約二四・五メートル(空走距離一〇・四メートル、制動距離一四・一メートル)となるところ(なお、時速六〇キロメートルのときは、空走距離一二・五メートル、制動距離二〇・二メートルで三二・七メートルとなる。)、被害車の損傷状況(甲五、一七号証によれば、フロントバンパーのみならず、フロントフエンダー、フード、フロントグリル等が大破しているが、フロントタイヤの後退までは認められない。)、中村及び藤原が被害車の速度について相当の高速で進行していたと感じたことを併せ考慮すると、原告の右供述部分は信用することができず、被害車は、制限速度である時速五〇キロメートルを相当上回る速度で進行していたものと推認するのが相当である(ただし、前記実況見分の際、被害車のものと考えられるスリツプ痕は見当たらず、これは被害車〈3〉の後方四ないし五メートル付近まで路面に消化器の泡が飛散していたためにスリツプ痕が発見できなかつたことによる可能性があるうえ、車種やブレーキの踏み方によつては、スリツプ痕がつかない可能性も存すること(甲一、安部証言20項)に照らすと、本件証拠上、被害車の正確な速度を算出することは困難であると考えられる。)。

ウ 警備員の合図について

原告は、警備員は停止の合図をしなかつた旨供述するが(第一回平成二年四月一三日付調書26項)、前記藤原証言に照らして信用できず、また、前記(三)(2)の被害車の進行状況等を考えると、そもそも原告が警備員の存在に気づいたかも疑問である。

一方、中村証言中には、被害車に対して停止の合図をした旨の供述部分(40項)も存するが、同証言中の他の供述部分(25項)と矛盾するのみならず、同人は、中央寄り車線には加害車はいないと考えていたことに照らすと、前記供述部分は信用できないというべきである。

2  被告の責任

以上の事実を前提として、被告の責任について検討する。

(一) 前記の事実によれば、被告の現場責任者である原は、本件工事の埋め戻し作業のため、康に指示し、加害車を中央寄り車線に進入させたうえ、埋め戻し場所まで後退させるといつた工事方法をとつたものであるところ、このような工事方法は、道路使用許可を受けるに当たり定められた土砂等の搬出入は工事現場の死角から行うといつた条件に反するものであるうえ、一時的であるにせよ、中央寄り車線をほぼ完全に塞ぐものであり、かつ、左側車線はカラーコーンで仕切られ(なお、同部分にはユニツト車を停止させていた。)、中央分離帯には柵が設けられているといつた本件事故現場付近の状況に照らすと、本件道路を進行してくる車両に危険を生じさせる工事方法であるというべきである。

しかしながら、このような作業方法は、通行車両の安全について十分配慮しながら行うときは危険も少ないというべきであるから、被告工事関係者がこのような作業方法をとつたからといつて、直ちに事故の発生と結びつく過失があるということはできないと考えられる。ただ、このような工事方法をとる以上、工事関係者としては、中央寄り車線を進行してくる車両の安全に十分注意し、接近してくる車両があれば、それを停止あるいは減速徐行させ、加害車との衝突を未然に防ぐべき注意義務があつたというべきである。そして、これまでも深夜、通行量が少ないのでスピードを出す車両もあり(中村証言5項)、工事関係者としては、本件のように高速で進行してくる車両のあることを予測できなかつたとはいえないことを考慮に入れると、少なくとも、現場責任者としては警備員と連絡を密にし、その旨を周知徹底して適切な誘導措置をとらせるべきであり(中村及び藤原が現場責任者である原の指揮、監督に服する関係にあることは明らかである。)、本件の場合、中村をもう少し西側に配置し(前記のとおり、道路使用許可の条件として工事現場の両端に保安要員を配置すべきこととされ、甲二号証中の交通対策図でも、西側の警備員はカラーコーン西端付近に配置されることになつていた。)、前記都島東詰交差点の信号の変化や通行車両の有無及び動静に十分注意させ、中央寄り車線の状況に応じた誘導をさせるなどすべきであつたというべきである。

(二) しかるに、本件においては、中村は、原の指示に従つて前記場所で原らの工事関係者との連絡も十分になされないまま、中央寄り車線が塞がれていることを知らないまま通行車両の誘導に当たつていたものであり、この点について被告側の過失があつたことは否定できないと考えられる。本件事故は、原告が制限速度を相当上回る速度で進行中、道路工事中であることに気づきながら、そのまま行けると安易に考えて減速徐行しなかつたのみならず、前方を注視しなかつたという基本的な注意義務違反に大きく起因しているものというべきであるが、前記(一)の事情に照らすと、このことをもつて、被告側の過失を否定したり、また、被告側の過失と本件事故との間に因果関係は存しないとすることは相当でないというべきである。

(三) 以上のとおり、本件事故発生については、少なくとも、被告の現場責任者である原に前記のような過失があつたというべきであるから、被告は、民法七一五条に基づき、原告の被つた損害を賠償する責任があるというべきである。

二  損害

1  修理費 五二〇万円

(一) 被害車の所有関係

証拠(甲一〇、一六号証、乙二号証、原告本人〔第一、二回〕)によれば、原告は、その取締役をしていた株式会社エポツク商会(その後、株式会社日本アドバンスに社名変更)の名義を借り、昭和五七年七月、豊和自動車株式会社から約一三〇〇万円で被害車を新車として購入したが、代金分割払いのため、所有権は三和自動車株式会社(ポルシエの輸入元)に留保され、また、自動車登録証上の使用者は株式会社エポツク商会とされたこと、原告は、その後に右代金を完済したことが認められる。

したがつて、原告は、被害車の実質上の所有者であり、本件事故による損害賠償請求権を有することは明らかである。

(二) 相当な損害額

(1) 前記のとおり、被害車は、前部を中心に大破し、また、前部が炎上したところ、証拠(甲四、六、七、一四、一五、一七号証、原告本人〔第一、二回〕)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、平成元年四月二七日に被害車の修理を京都府綾部市所在の有限会社小雲鈑金に依頼し、その修理が平成元年八月一二日に終了したこと、そして、その費用として八二四万五一五〇円(うち消費税二万四〇一五円)を要し、その代金を支払つたことが認められ、これを覆すに足りる証拠は存しない。

なお、原告は、小雲鈑金の修理は、鈑金関係に限られ、エンジン部の修理はしていないと主張するが、甲一七号証によれば、被害車のエンジンブロツク及びミツシヨンケースが交換され、オーバーホールも行われたことが認められ、右主張は採用できない。

(2) ところで、乙一号証(平成元年版レツドブツク外車編)によれば、昭和五七年式のポルシエ九二八(型式E…九二八一)の平均販売価格は五二〇万円(新車価格は一一八〇万円)、ポルシエ九二八Sのそれは六四〇万円(同一七一〇万円)であること、甲一三号証によれば、五万キロメートル走行した昭和五六年式ポルシエ九二八(S仕様)が中古車として五八〇万円で販売されていること、証人横溝豊の証言によれば、登録後五年経過又は五万キロメートル走行のポルシエ九二八の中古車販売価格は六〇〇万円プラスアルフア程度であるところ、ポルシエ九二八Sには安いほうのS1と高いほうのS2とがあり、被害車はS1であり、原告はこれを約一三〇〇万円で購入したこと(原告〔第一回〕)に、被害車の年式(昭和五七年七月初度登録で約七年経過)、走行キロ数(甲八号証によれば、平成元年八月二一日に豊和自動車株式会社に持ち込まれた段階で五万八一五〇キロメートル)に、被害車の本件事故当時の整備状況等が不明であることを併せ考慮すると、被害車の本件事故当時の交換価格は控えめに見て五二〇万円と認めるのが相当である。

なお、原告は、被害車のマフラーを付け替えたと供述するが(第二回12項)、それによつて、どの程度被害車の交換価値が増加したか不明であるので、右の点は斟酌しないこととする。

(3) 右事実によれば、被害車については、修理費が本件事故当時の交換価格を著しく超えることは明らかであるから、経済的全損として、右の五二〇万円を限度として本件事故による損害と認めるのが相当である。

2  慰謝料 二〇万円

証拠(甲三号証、原告本人〔第一回〕)によれば、原告は、本件事故により、口腔内裂傷、上顎骨剥離骨折の傷害を負つたことが認められ(本件事故直後の診断では、一週間の通院加療を要する見込みと診断された。)、その他、前記認定の諸般の事情を考慮すると、原告の被つた肉体的、精神的苦痛を慰謝する金額は二〇万円とするのが相当である。

(以上1及び2の合計 五四〇万円)

3  過失相殺

前記のとおり、本件事故発生については、原告に減速徐行義務違反、前方不注視等の過失があり、前記双方の過失の内容、程度に本件事故現場付近の状況等を併せ考慮すると、原告と被告側の過失割合は八対二とするのが相当である。

したがつて、本件においては、この割合に従つて過失相殺をするのが相当であり、前記損害額から八割を控除すると、原告が被告に対して請求しうる損害額は一〇八万円となる(なお、本件のように、損害賠償義務者が被害者に過失がある事実を主張した場合は、これを賠償額の算定に当たり斟酌すべき旨を主張しなくても、裁判所は、損害の公平な分担の観点から、その過失を斟酌することができると解される。)。

三  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、金一〇八万円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成元年四月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容するが、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 二本松利忠)

別紙 〈省略〉

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